会社売却の相場はいくら?中小企業の売却価格の決まり方と計算方法

「自分の会社を売却するとしたら、いくらになるのだろうか」

会社の売却や事業承継を検討する経営者にとって、最も気になることの一つが売却価格ではないでしょうか。

「年商が1億円なら、会社は5,000万円で売れる」「営業利益の3年分が相場」といった話を聞くこともあります。しかし、実際のM&Aでは、会社の売却価格は年商や利益だけで一律に決まるものではありません。

同じ売上規模であっても、保有資産、借入金、利益の安定性、従業員や取引先の状況によって、買い手が評価する金額は大きく変わります。

この記事では、中小企業の会社売却について、公的なM&A成約データと具体的な計算例をもとに、次の内容を解説します。

  • 中小企業の会社売却相場と業種別の違い
  • 会社の売却価格を算出する主な計算方法
  • EBITDAと借入金が売却価格に与える影響
  • 売却価格が高くなる会社・低くなる会社の特徴
  • 売却価格と経営者の手取り額の違い

自社の価値を把握し、会社売却を検討する際の参考にしてください。

会社売却の相場はどのように決まる?

結論からお伝えすると、中小企業の会社売却には、すべての企業に共通する一定の相場はありません。

会社を買収する側が評価するのは、売上高そのものではなく、主に次の3つの要素です。

① 会社が保有している資産の価値

現預金、不動産、設備、売掛金、在庫などの資産から、借入金や買掛金などの負債を差し引いた価値です。

例えば、総資産が8,000万円、負債が5,000万円の会社であれば、帳簿上の純資産は3,000万円となります。

ただし、帳簿上の金額がそのまま現在の価値を表しているとは限りません。

土地の含み益や、回収できない売掛金、価値が低下した在庫などを反映する必要があります。

② 今後も利益を生み出せる力

買い手にとって重要なのは、会社を買収した後も利益を継続して生み出せるかという点です。

例えば、同じ年商2億円の会社でも、毎年安定して2,000万円の営業利益を計上する会社と、利益が100万円程度の会社では、評価が異なります。

さらに、直近1年間だけ大きな利益が出ている会社より、複数年にわたって安定した利益を計上している会社の方が、将来の収益を予測しやすくなります。

③ 買い手にとっての戦略的な価値

M&Aでは、財務諸表に表れない価値も重要です。

例えば、特定地域の顧客基盤、技術力、専門資格を持つ人材、長期契約の取引先などが挙げられます。

買い手が自社で同じ事業基盤を構築するには多額の費用や時間が必要な場合、買収によって得られる価値が高く評価されることもあります。

このように、会社売却では「現在保有している価値」と「将来生み出す価値」の両方を考える必要があります。

公的データで見る中小企業のM&A売却相場

会社売却の相場を考えるうえで参考になるのが、M&A支援機関登録制度が公表している成約データです。

2024年度の中小M&A案件のうち、EV/EBITDA倍率を計算できた1,987件では、以下の結果となっています。

指標 EV/EBITDA倍率
第1四分位 3.6倍
中央値 7.3倍
第3四分位 15.5倍

EV/EBITDA倍率とは、企業価値がEBITDA(税引前・利払前・減価償却前利益に相当する指標)の何倍で評価されているかを示すものです。

上記の結果を見ると、中央値は7.3倍ですが、中央50%の案件だけでも3.6倍から15.5倍まで幅があります。

つまり、「会社は利益の何倍で売れる」と一つの数字で断定することは適切ではないのです。

なお、このデータは登録支援機関から報告された成約案件のうち、必要な財務指標を算出できた案件の集計です。すべての中小企業の相場を保証するものではありません。

業種によって売却相場は異なる

同じ公的データを業種別に見ると、評価倍率には違いがあります。

業種 件数 第1四分位 中央値 第3四分位
建設業 310件 2.9倍 5.4倍 11.6倍
製造業 358件 3.5倍 6.3倍 14.7倍
情報通信業 153件 4.7倍 9.0倍 17.2倍
卸売業・小売業 336件 3.8倍 7.7倍 14.9倍
職業紹介・労働者派遣業 30件 3.5倍 9.4倍 19.6倍

※出典:M&A支援機関登録制度「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2024年度)。倍率はEV/EBITDAであり、株式譲渡価格そのものの倍率ではありません。

このデータからも、業種ごとに企業価値の評価傾向が異なることが分かります。

ただし、例えば情報通信業の中央値が9.0倍だからといって、すべてのIT企業がEBITDAの9倍で売却できるわけではありません。

会社の規模、財務状況、事業モデル、成長率などを個別に評価する必要があります。

参考:M&A支援機関登録制度・中小M&Aの集計結果

中小企業の売却価格を計算する3つの方法

会社の売却価格を考える際には、複数の企業価値評価方法が利用されます。

ここでは、中小企業のM&Aで参考にされる代表的な考え方を紹介します。

① 時価純資産法・年買法

中小企業のM&Aで利用される考え方の一つが、時価純資産を基準に評価する方法です。

時価純資産は、会社の資産と負債を現在の価値に修正して求めます。

時価純資産 = 時価評価した資産 − 時価評価した負債

さらに、利益を生み出す力を「のれん(営業権)」として評価し、時価純資産に加算する方法もあります。

いわゆる年買法では、次のような考え方を用います。

株式価値の参考額 = 時価純資産 + 調整後利益 × 評価年数

中小企業庁の資料では、純資産に加算する利益の年数について、通常1〜3年が用いられるケースがあると説明されています。ただし、利益の種類や年数は案件ごとに異なります。

計算例

次のような会社を想定します。

項目 金額
時価純資産 2,400万円
調整後経常利益 600万円
利益の評価年数(仮定) 2年
のれんの参考額 1,200万円
株式価値の参考額 3,600万円

計算式は以下のとおりです。

2,400万円 +(600万円 × 2年)= 3,600万円

この場合、株式価値の一つの参考額は3,600万円となります。

ただし、時価純資産にはすでに借入金などの負債が反映されています。計算後に同じ負債をもう一度差し引かないよう注意が必要です。

また、のれんが必ず認められるわけではなく、利益の継続性や買い手の評価によって金額は変動します。

② EV/EBITDA倍率法

EV/EBITDA倍率法は、企業の収益力と評価倍率をもとに価値を算定する方法です。

マレックスの企業価値の無料簡易診断でも、この考え方を採用しています。

まず、EBITDAを求めます。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

次に、業種や企業の特徴に応じた倍率を掛け、事業全体の価値の参考額を求めます。

企業価値(EV)= EBITDA × 評価倍率

最後に、有利子負債と現預金を調整し、株式価値を試算します。

株式価値 = EV − 有利子負債 + 現預金

計算例

以下の財務状況の会社を想定します。

項目 金額
年商 1億5,000万円
営業利益 800万円
減価償却費 200万円
EBITDA 1,000万円
有利子負債 1,500万円
現預金 500万円

ここでは、仮にEV/EBITDA倍率を5倍として計算します。

まず、企業価値を求めます。

1,000万円 × 5倍 = 5,000万円

次に有利子負債と現預金を調整します。

5,000万円 − 1,500万円 + 500万円 = 4,000万円

この場合、株式価値の簡易的な試算結果は4,000万円となります。

※倍率5倍は説明用の仮定であり、この会社の適正倍率や成約価格を示したものではありません。実際には、余剰現預金・必要運転資金・非事業用資産などの調整も検討します。

評価倍率が変わると価格はどれほど違う?

先ほどの会社について、倍率だけを変えて比較すると次のようになります。

仮定した倍率 企業価値(EV) 株式価値の参考額
3倍 3,000万円 2,000万円
5倍 5,000万円 4,000万円
7倍 7,000万円 6,000万円

同じ決算書でも、評価倍率を変えるだけで株式価値の試算結果は大きく変わります。

したがって、どの倍率を採用するのか、その根拠が重要です。

企業規模や取引先の安定性、経営者への依存度、今後の成長性、対象となるM&A事例などを踏まえて判断する必要があります。

③ DCF法

DCF法は、将来生み出すと予想されるキャッシュフローを現在の価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。

現在の資産や直近の利益だけでなく、今後の事業計画や成長性を評価に反映しやすい特徴があります。

一方で、将来の売上や利益、設備投資、運転資金などの予測が必要となるため、前提条件によって評価結果が大きく変わることがあります。

そのため、どの評価方法が適切かは、企業の規模や事業特性に応じて検討することが重要です。

参考:中小企業基盤整備機構「会社を売却する際、売却価格をどのように考えたらよいでしょうか」

売上高が同じでも会社の売却価格が異なる理由

「年商1億円の会社なら、いくらで売れるのか」という質問に対して、単純に答えを出すことはできません。

例えば、以下の2社を比較してみましょう。

比較項目 A社 B社
年商 2億円 2億円
営業利益 1,500万円 300万円
主要取引先 複数社に分散 1社に集中
経営体制 管理職が自走 社長に依存
売上の継続性 長期契約が中心 単発取引が中心

年商だけを見れば2社は同じですが、買い手にとってのリスクは異なります。

A社は、経営者が交代しても比較的安定した利益が期待できる可能性があります。

一方、B社は主要取引先との契約が終了した場合や、社長が退任した場合の影響が大きくなる可能性があります。

このような場合、売上高が同じでもA社の方が高く評価されることが考えられます。

もっとも、B社に特別な技術や希少な許認可、買い手との大きな相乗効果がある場合には、別の評価となる可能性もあります。

会社の売却価格を左右する5つの重要ポイント

① 利益が継続しているか

一時的な大型案件による利益と、毎年安定して発生する利益では評価が異なります。

買い手は、過去の決算書だけでなく、月次の売上推移や今後の収益見通しも確認します。

② 経営者が退任しても事業を継続できるか

中小企業では、社長自身が営業・採用・経理・取引先対応などを担っていることも少なくありません。

買収後に社長が退任すると事業が継続できない状態では、買い手にとって大きなリスクとなります。

管理職への権限移譲や業務マニュアルの整備などは、事業の引継ぎを円滑にするうえで重要です。

③ 主要取引先への依存度

特定の取引先に売上が集中している場合、その取引先との契約継続が重要な評価項目になります。

買い手は、契約期間や取引条件、経営者との個人的な関係などを確認します。

④ 借入金・簿外債務の状況

会社売却では、借入金や未払い債務などの確認が欠かせません。

例えば、未払い残業代、未計上の退職給付債務、訴訟リスクなどが発見された場合、買い手が売却価格の見直しを求める可能性があります。

会社に対する経営者個人の貸付金(役員借入金)がある場合も、株式の譲渡代金と返済方法を区別して検討する必要があります。

⑤ 買い手との相乗効果

会社の評価は、買い手によっても変わります。

例えば、既存の営業エリアを拡大したい企業にとっては、地域に根付いた顧客基盤を持つ会社が魅力的に映ることがあります。

新規事業へ進出したい企業にとっては、人材・設備・許認可などを一度に確保できる点が評価されることもあります。

そのため、価格だけでなく、会社の強みを理解し、事業を引き継げる買い手を探すことも重要です。

売却価格がそのまま経営者の手取り額になるわけではない

会社売却を検討する際、売却価格と同じくらい重要なのが、最終的に手元に残る金額です。

例えば、株式譲渡価格が4,000万円だった場合、4,000万円全額が経営者の手取りになるとは限りません。

仲介手数料、専門家費用、税金などを考慮する必要があります。

特に、個人株主が保有株式を譲渡する場合、税金は一般に売却代金全体ではなく、取得費や譲渡費用などを差し引いて計算する譲渡益をもとに判断します。

また、法人が株式を保有している場合や、株式譲渡ではなく事業譲渡を行う場合は、税務上の取り扱いが異なります。

そのため、希望する売却価格を考える際には、税理士などの専門家とともに手取り額を確認することが大切です。

なお、マレックスでは着手金・中間金のない完全成功報酬制を採用しており、報酬の計算方法や適用条件は事前にご案内しています。

詳しくはマレックスのM&A仲介手数料・料金についてをご覧ください。

自社の売却価格を調べるために準備したい資料

会社の企業価値をより具体的に把握するには、財務資料や事業に関する情報が必要です。

まずは次のような資料を整理しておくとよいでしょう。

  • 直近3期程度の決算書・勘定科目内訳明細書
  • 直近の月次試算表
  • 借入金の残高・返済予定表
  • 主要取引先ごとの売上情報
  • 従業員数・役職・保有資格などの情報
  • 保有不動産・設備・許認可に関する資料
  • 役員借入金や保証債務などの情報

すべての資料が揃っていなくても、企業価値の検討を始めることは可能です。

ただし、資料の精度が低い場合、初期段階の評価と、買い手による詳細調査後の評価が異なることがあります。

会社の売却価格を適切に把握するためには、財務状況を正確に整理することが重要です。

よくある質問

Q. 年商1億円の会社はいくらで売れますか?

年商だけでは売却価格を判断できません。

純資産や利益、借入金、取引先の状況などによって価格が変わります。

詳しくは、関連記事「年商1億円以下の会社は売れる?小規模M&Aの相場と売れる会社の特徴」をご覧ください。

Q. 赤字の会社でも売却できますか?

赤字であっても売却できる可能性はあります。

例えば、価値のある不動産や設備、顧客基盤、技術、人材などを保有している場合です。

ただし、事業の継続可能性や負債の状況などによって、買い手の判断は異なります。

Q. 借入金がある会社でも売却できますか?

借入金があることだけを理由に、会社売却が不可能になるわけではありません。

ただし、借入金の残高は株式価値の算定や契約条件に影響します。

また、経営者が個人保証を提供している場合、株式譲渡によって自動的に保証が解除されるわけではありません。金融機関との協議や契約上の対応が必要になります。

Q. 会社売却の相場を無料で調べる方法はありますか?

マレックスでは、企業価値の簡易診断サービスを無料で提供しています。

業種や営業利益、減価償却費、借入金、現預金などの情報を入力することで、株式価値の参考額を確認できます。

ただし、試算結果は正式な査定額や実際の譲渡価格を保証するものではありません。

企業価値を無料で試算する

まとめ

会社売却の相場は、年商や利益だけで決まるものではありません。

保有資産、借入金、利益の安定性、成長可能性、経営体制、買い手との相乗効果など、さまざまな要素をもとに評価されます。

特に重要なのは、次の3点です。

  1. 企業価値の評価方法を理解し、複数の視点で検討すること
  2. 決算書だけでは分からない会社の強みとリスクを整理すること
  3. 想定される売却価格だけでなく、手取り額や引継ぎ条件も考えること

自社の価値を知ることは、会社売却をすぐに決断するという意味ではありません。

今後も経営を続けるのか、後継者に引き継ぐのか、第三者への売却を検討するのか。経営者が選択肢を比較するうえで、一つの判断材料になります。