廃業と会社売却はどっちが得?費用と手取りで徹底比較

「後継者がいないから、そろそろ会社を畳むしかない」。そう考えている経営者の方は少なくありません。しかし、廃業を決める前に一度「会社を売却する」という選択肢と比べてみると、手元に残るお金も、従業員や取引先の未来も大きく変わる可能性があります。

「うちのような小さな会社が売れるわけがない」と思われるかもしれません。実際には、年商数千万円規模の会社や個人事業でも、買い手が見つかるケースは珍しくありません。

この記事では、廃業と会社売却(M&A)の違い、それぞれにかかる費用、最終的な手取り額の比較、そして小規模でも売れる会社の特徴を、M&A仲介の現場の視点からわかりやすく解説します。

廃業と会社売却(M&A)の違い

廃業は会社や事業そのものを終わらせること、会社売却は会社や事業を第三者に引き継いで存続させることです。どちらも「経営者が引退する」点は同じですが、会社の資産や従業員の行き先がまったく異なります。

比較項目 廃業 会社売却(M&A)
会社・事業 なくなる 買い手のもとで存続する
従業員 解雇が必要 雇用が引き継がれるのが一般的
取引先 取引終了 取引が継続されるのが一般的
資産の扱い 換金して清算(売値は安くなりがち) 事業として一括で評価される
のれん(ブランド・ノウハウ・顧客) 価値はゼロになる 売却価格に上乗せされることがある
経営者が受け取るお金 清算後に残った財産のみ 売却代金
かかる期間の目安 数ヶ月〜1年程度 半年〜1年程度(案件により異なる)

特に大きな違いは「のれん」です。長年築いてきた顧客基盤、技術、取引先との関係、従業員のノウハウは、廃業すると一円にもなりません。売却であれば、これらが価値として評価される可能性があります。

廃業にかかる費用と手間

廃業は「お金がかからない終わり方」と思われがちですが、実際には数十万円から、規模によっては数千万円の費用がかかることがあります。主な費用は次のとおりです。

費用の種類 目安 内容
登記・公告費用 登記・公告等の実費(手続きにより異なります) 解散登記(登録免許税3万円)、清算人選任登記(9,000円)、清算結了登記(2,000円)、官報公告(約3〜4万円)
専門家報酬 数十万円程度 司法書士・税理士への手続き・清算確定申告の依頼費用
設備・在庫の処分費 規模による 機械や在庫の廃棄・買取は簿価を大きく下回ることが多い
原状回復費用 数十万〜数百万円 賃貸の事務所・店舗・工場を元に戻す工事費
従業員への対応 規模による 解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)や退職金
借入金・リースの精算 残高による 一括返済や途中解約による違約金

清算に伴う残余財産の分配では、みなし配当や株式の譲渡所得等として課税される場合があります。株主の属性や資本金等の額、取得費などにより取り扱いが異なるため、手取り額は税理士に確認しましょう。

また、会社の借入金に経営者の個人保証がついている場合、資産を処分しても返しきれなければ個人で返済する必要があります。廃業は手続きの手間だけでなく、こうした金銭的負担も伴う選択肢です。

会社売却にかかる費用と得られるお金

会社売却では仲介会社への手数料などの費用がかかりますが、それを上回る売却代金が得られれば、廃業より手元に多くのお金が残ります。

主な費用

費用の種類 内容
仲介手数料 相談料・着手金・中間金・成功報酬など。料金体系は仲介会社によって大きく異なる
企業評価・資料作成 株価算定や企業概要書の作成費用(手数料に含まれる場合もある)
専門家費用 契約書確認や税務相談を弁護士・税理士に依頼する場合

仲介手数料は、算定基準や最低報酬額によって異なります。当社は着手金・中間金なしの完全成功報酬制です。最低成功報酬は300万円からとなります。詳しくは料金についてをご確認ください。

M&Aの専門家費用には補助制度を利用できる場合があります。対象者・対象経費・申請時期などの条件があるため、事業承継・M&A補助金の公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。

売却代金にかかる税金

個人が株式を第三者へ売却する場合、譲渡益は原則として申告分離課税の対象です。所得税・住民税・復興特別所得税を合わせた税率は通常20.315%です。売却額全体ではなく、取得費や譲渡費用等を差し引いた利益をもとに計算します。個別の税額は税理士に確認してください。参考:国税庁「株式等を譲渡したときの課税」

事業だけを売却する場合(事業譲渡)は、代金が会社に入り、法人税の対象になります。どちらの方法が有利かは会社の状況によって異なるため、専門家と相談しながら決めることが大切です。

【シミュレーション】廃業と売却で手取りはいくら違う?

同じ会社でも、廃業なら手取り約250万円、売却なら約2,370万円と、2,000万円以上の差が生まれることがあります。次のような会社を例に計算してみます。

モデル企業:創業30年の製造業、従業員8名、年間営業利益400万円。資産は現預金1,000万円・売掛金500万円・設備と在庫1,500万円(いずれも帳簿上の金額)、借入金1,000万円、資本金300万円。株式はすべて社長が保有。

項目 廃業した場合 売却した場合
会社の資産の評価 現預金1,000万円+売掛金500万円+設備・在庫の換金300万円(帳簿の2割で処分)=1,800万円 時価純資産2,000万円+営業利益3年分1,200万円=売却価格3,200万円
借入金の返済 −1,000万円 買い手が会社ごと引き継ぐ(売却価格に織り込み済み)
廃業・売却の費用 −550万円(原状回復200万円、従業員への解雇予告手当等300万円、登記・専門家費用50万円) −300万円(仲介手数料と仮定)
税金 ほぼ0円(残余財産が資本金の範囲内のため) −約528万円(譲渡益2,600万円×20.315%)
社長の手取り 約250万円 約2,370万円

差が生まれる主な理由は2つです。1つは、廃業では設備や在庫が二束三文でしか売れないこと。もう1つは、売却では「これからも利益を生む事業」としての価値(のれん)が価格に上乗せされることです。

※上記はわかりやすさを優先した仮の計算です。売却価格の算定方法(ここでは簡易的な「年買法」を使用)、手数料、税額は会社の状況によって大きく異なります。実際の金額は個別にご相談ください。

廃業で失うのはお金だけではない

廃業を選ぶと、手取り額の差以上に、経営者が大切にしてきたものが失われます。

従業員の雇用:長年一緒に働いてきた従業員は職を失います。特に年齢の高いベテラン社員は再就職が難しいこともあります。売却であれば、雇用を引き継ぐことを条件に買い手を探すことができます。

取引先との関係:仕入先や得意先にとって、取引先の廃業は代わりを探す負担になります。地域の中で担ってきた役割がなくなることもあります。

技術・ノウハウ・ブランド:長年かけて磨いた技術や、地域で知られた屋号は、廃業すると引き継ぐ人がいなくなります。

事業の継続を検討する際には、売却後の従業員の雇用や取引先との関係も大切な判断材料になります。

売却を検討すべきケース・廃業が向いているケース

利益が出ている、または黒字化の見込みがある会社は、まず売却を検討する価値があります。一方で、すべての会社に売却が最善とは限りません。

売却を検討すべきケース

  • 直近数年、営業利益が黒字である(少額でも構いません)
  • 安定した取引先や常連客がいる
  • 許認可、資格者、専門技術など、新規参入が難しい強みがある
  • 従業員の雇用を守りたい、屋号や事業を残したい
  • 借入金があり、廃業すると個人保証の返済が残りそうだ

廃業が現実的なケース

  • 長年赤字が続き、事業そのものに改善の見込みがない
  • 経営者個人の技能や人脈だけで成り立っており、引き継げる仕組みがない
  • 債務超過が大きく、買い手にとって引き継ぐメリットがない

ただし、赤字や債務超過の会社でも、取引先や設備、許認可に価値があれば売却できることがあります。「廃業しかない」と自己判断する前に、一度専門家に相談することをおすすめします。

小規模でも売れる会社の4つの特徴

買い手が小規模な会社に求めているのは、規模の大きさではなく「自社でゼロから作るより早く手に入る価値」です。次のような特徴があれば、年商数千万円規模でも買い手が見つかる可能性があります。

  1. 安定した顧客・取引先がある:継続的な売上が見込める顧客基盤は、買い手にとって最も魅力的な資産の一つです。
  2. 人材・資格者がいる:人手不足の業界では、経験のある従業員や有資格者がいること自体が大きな価値になります。
  3. 許認可・立地・設備がある:建設業許可や運送業の認可など、取得に時間がかかる許認可は買収の大きな動機になります。
  4. 業務が仕組み化されている:社長がいなくても回る体制があると、買い手は安心して引き継げます。

最近は、事業会社だけでなく、独立を目指す個人や若手経営者が小さな会社を買うケースも増えています。買い手の層が広がったことで、以前なら売却が難しかった規模の会社にもチャンスが生まれています。

詳しくは「年商1億円以下の会社は売れる?小規模M&Aの相場と売れる会社の特徴」でも解説しています。

よくある質問

Q. 赤字の会社でも売却できますか? A. 可能性はあります。赤字でも、取引先、従業員、許認可、設備などに価値があれば、買い手が見つかるケースがあります。赤字の原因が一時的なものか、構造的なものかによって評価が変わります。

Q. 売却を検討していることが従業員や取引先に知られませんか? A. M&Aの交渉は秘密保持契約を結んだうえで進めるのが原則です。従業員や取引先への公表は、基本合意や最終契約のタイミングで、経営者と相談しながら決めます。

Q. 廃業と売却、どちらにするかまだ決めていなくても相談できますか? A. もちろんです。売却できる可能性があるかどうかを確認したうえで、廃業と比較して判断していただけます。ご相談は無料です。

Q. 売却までどれくらいの期間がかかりますか? A. 一般的には半年から1年程度です。ただし、買い手が早く見つかれば数ヶ月で成約することもあります。廃業を考え始めた段階で早めに相談するほど、選択肢が広がります。

まとめ

廃業と売却を比べると、手元に残るお金、従業員の雇用、取引先との関係のすべてで、売却のほうが有利になるケースが多くあります。そして、小規模な会社でも売却できる可能性は十分にあります。

一方で、廃業の手続きを一度進めてしまうと、売却という選択肢は取れなくなります。後悔しないためにも、決断する前に「自社が売れるのか」「いくらくらいになるのか」を知っておくことが大切です。